アルトゥーロ・ペレス・レベルテ 『アラトリステI』
2006-11-10読了 ◎
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十七世紀初頭、太陽の沈まぬ帝国スペインの首都マドリード。雇われ剣客として生計を立てている退役軍人ディエゴ・アラトリステのもとに、仮面の男たちからの奇妙な依頼が舞い込む。ふたりの英国人旅行者を標的とする襲撃に、釈然としないものを感じながらも手を貸すことになったアラトリステ。このときはかれも、また従者のイニゴも、この事件のせいで生涯の敵を作ってしまうとは思ってもみなかったのだが……。
人情味のある剣客小説。痛快でおもしろい!
剣客小説なんていうと、なんだか日本の時代小説みたいですね。でもそんな感じ。目新しいものがあるのではなく、とてもまっとうにおもしろい。ヴィゴ・モーテンセンの新作[参照:公式サイト/IMDb.]の原作、というだけで読んでみたのですけれど、めっけものでした。
主人公はカピタン(隊長)のあだ名をもつ退役軍人ディエゴ・アラトリステ。語り手のイニゴはアラトリステの従者をしていて、そのかれが年老いて筆を執った回想録のかたちを取っています。これがまた、オーソドックスだけれど味わいがあっていいんですね。謎めいていて無愛想で本心を見せてくれないけれど、戦友の忘れ形見でもあるイニゴを気遣っていて、頼りになる主人。この本を書いている時点ではもう故人らしいアラトリステを、イニゴが心から敬愛し、慕っていたのがもう端々から伝わってくる。
アラトリステがまたいい男なんです。寡黙な堅物、眼の色は澄んだ灰緑色、というのだけれど、これをヴィゴ・モーテンセンが演じると思うとたまらないものがある。日本公開決定熱烈祈願!
このほか登場人物には実在の人が多くて、スペイン史に明るければさぞかし楽しかっただろうと思います。若い国王フィリップ四世、マリア王女、オリバーレス伯など。アラトリステとイニゴの宿敵となる秘書官ルイス・デ・アルケサルと、イタリア人暗殺者グアルテリオ・マラテスタは架空かな。
このアルケサルの姪に、イニゴが一目惚れをするアンヘリカという金髪の美少女がいて、眼の色は「冬のマドリードの空のよう」な青なんだそうです。アンヘリカは、デュマの『三銃士』に出てくるミレディのようなキャラクタということで、美貌と邪悪を兼ねそろえた娘。今回は登場場面も少なかったけれど、この先のシリーズはイニゴとアンヘリカの愛憎劇にもなっていくんだろうなあ。イニゴがあまりつらい目にあわないといいけれど。
詩の引用もたくさんあるのですけれど、ルネッサンス期スペインの詩人なんてほんとに知らないので、惜しいことをしました。とくにフランシスコ・デ・ケベードはアラトリステの親友という設定で、いいとこ取りの役柄です。この人の詩を読んでみようかという気になりました。
最後に気に入りの箇所を引用しておきます。
そしてアラトリステは地面からピストルを拾い上げ、歩き始めた。私はアラトリステに言われたとおりにする前に、まず隅石の所までマントを取りに行き、彼を走って追いかけてマントを手渡した。彼はマントを肩に斜めがけにすると、片手を上げて私の頬に軽く触れた。彼にしてはめずらしく、愛情のこもったしぐさだった。そして先ほど大丈夫かと尋ねた時のように、私のことをじっと見つめた。私が恥ずかしいような、誇らしいような気持ちでいると、彼の負傷した手から流れる血の一滴が、自分の頬に滴り落ちるのを感じた。
イニゴとアラトリステのあいだにたしかにある強い愛、おたがいへの思いやりを感じる場面。とても好きな箇所です。
ちゃんばら場面はあるし、黄金時代のスペインを偲ばせる華麗な貴族文化も垣間見られるし、当時の詩もたくさん引用されているしで、読んでいて楽しい本です。お薦め。
アルトゥーロ・ペレス・レベルテ 『アラトリステI』
レトラ(訳) 長野剛(挿画)
イン・ロック 2006-07-07
Arturo Pérez-Reverte El Capitán Alatriste, 1996
2006-11-10読了 ◎
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